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お知らせ

教育ファームでつなぐ学校・家庭・地域の絆

第1部 教育ファーム推進セミナー 開催報告(2009年8月1日開催)

 

 2009年8月1日(土)、東京国際フォーラムホールD7にて『教育ファーム推進セミナー&全国交流会」が開催されました。第1部のセミナーでは、「教育ファームでつなぐ学校・家庭・地域の絆」をテーマに、上智大学教授の奈須正裕さんによる基調講演と、3つの実践報告がありました。
 「モデル実証地区」で活動をされている方はもとより、一般参加を含め200名以上の来場があり、「いきおい」のあるユニークな報告に、会場全体が笑顔でほころぶ場面もありました。

 今回のキーワードは、「変容と結びあい(連携)」。
 教育ファームの活動では、学校、行政、生産者をはじめ、さまざまな立場の方がかかわります。それぞれの思いを結びつけ、質の高い実践を行うには、何が必要か。

 2年目をむかえた教育ファーム推進事業が、今後、さらに発展していくために、昨年度の効果測定の結果をふまえた講演と、学校、家庭、生産者の側から見た実践報告の模様をお伝えします。

満席の会場
満席の会場
当日のレジュメ
当日のレジュメ:
基調講演、実践報告の要旨など(PDF、1.2Mb)

基調講演:「体験」による真の「学び」とは――効果測定の結果から

講演者:上智大学総合人間科学部教育学科教授 奈須正裕 氏

奈須正裕さん
奈須正裕さん

 この講演では、昨年度の調査結果の解析を中心に、教育ファームの意義についてお話がありました。なかでも「農業体験には十分な教育効果があることが証明されたが、それには“質”の向上がともなってこそ」というまとめには、会場でも熱心にメモをとる姿がみられました。

1. 新学習指導要領と食育・教育ファーム
 平成20年度に改定された新しい学習指導要領では、「活用の学力」がより重視されるようになった、と奈須さんはおっしゃいます。これは知識をためこむことではなく、問題を解決する能力や生きる力(たくましさ)を身につけること。そのために環境や食の問題を、自分のものとして引き受けていく学習が重視されることになったのです。

 「うれしくて、今日のレジュメに全文をのせてみました」と、読み上げたのは『文部科学省解説』の一節。小学校における単元展開の例示として唯一あがった、「そばづくり」の項目です。畑でそばを育てることから「環境・食の安全」が身近な問題であることに気づき、食品としてのそばを知り自分たちの「健康」を考える、そば打ちを学び「地域」の人とのコミュニケーションや郷土愛が芽ばえる…という一連の展開例があがっています。
 また「総合的な学習の時間がなくなるのでは?」と心配する声が上がっていることにふれ、実際には内容が薄くなるどころか、探究できる力を身につける領域として、文部科学省がこの教科を位置づけたことを説明されました。


2. 平成20年度の効果測定から見えたこと
「平成20年度「教育ファーム推進事業」 事業成果・調査報告書」のページはこちら

(1)定量調査の結果から
 昨年度の教育ファームの効果測定は、全国11地区、2,000名を超える児童の意識調査をおこなっています。その結果について解説がありました。
 この調査からは、農作業の体験が「ある」と答えた子どもほど、(1)食べ残しが少ない、(2)郷土への親しみを感じている、(3)農業への理解度が高い、(4)ライフスキルの得点が高い傾向にあることが、明らかになりました。一方で、教育ファームに参加したすべての子が、農作業の体験が「ある」と答えたわけではありません。せっかく農作業をおこなっても、子どもの意識(主観的・主体的な農業体験)に届いて初めて、効果が見られるのです。つまり「教育ファームの質が、教育効果を大きく左右する」ことがわかったそうです。


(2)定性調査の結果から
 インタビュー、作文、ウェビングマップの3手法から、子どもたちの心の変化を追った結果も報告されました。
 農業体験前・後のウェビングマップの内容を比べてみると、農業が「他人ごとから自分ごと」になっていく様子が、はっきりとわかります。はじめ、米づくりからひろがる言葉の連想が「草」「緑」といった頭で考えた表現だったものが、体験後は「最初はとまどった」など、自分の体感をともなう表現に変わっていきます。
 また農業に対するイメージも、体験を通して肯定的なものへと変化し、「農家の人は土が命だ、と思いました」という感想を持った子どももいたそうです。これには奈須さんも「誰も教えていないのに」と感心されていました。

実践報告1:子どもだけでなく、教師もハマってしまった教育ファーム

講演者:福岡県 福岡市立愛宕小学校教諭 稲益義宏 氏

稲益義宏さん
稲益義宏さん

 愛宕小学校の校区内は、埋め立て地にビルが林立する人口密集地で、田畑がまったくありません。この都心部の学校で、「子どもたちが農業体験をしてみたらどうなるだろう?」と興味を持ったことから、今回の実践が始まりました。

子どもたちの心の変化
 体験を始めた頃の子どもたちの農業のイメージは案の定、「きつい」「よごれる」「おもしろくない」「休みがない」「何で自分がやらないといけないの?」という否定的なもの。それが土を耕し、バケツ稲を育て、田んぼを借りて米づくり体験をするうち、子どもたちの感想が少しずつ変わってきました。

 「食べることは当たり前だと思っていたのに“食べて生きるのが幸せだと思えるようになった”」と感じ、ゲストティーチャーの話をきいて「自分のことは自分でやりたい、という農家の話がかっこいい!」と言うようになった子どもたち。彼らの心の変化をすくいとるような写真や言葉の数々が、スライドショーで会場に流れました。

失敗も大事な体験
 2年目の今年は、昨年イネを育てた6年生が野菜を、新5年生がイネを育てることになりました。しかし今年は(も?)最初から波乱含み。畑に肥料をまきすぎてしまったせいで窒素過多になり、エグくて食べられないキュウリができてしまったのです。
 それに対する生産者のアドバイスは「失敗も農業なんだ」ということ。教師はなんとか方策を練って食べられるようにとがんばってしまうけれど、農業は(成功だけが目的の)イベントではないんだと気づかされた経験も話してくれました。

 まだ課題も多いですが、農家の指導を受けるなど、さまざまな人の協力を得ることで、校区を越えた交流の幅が広がっています、と結ばれました。

実践報告2:子育て農業で変わる“家族の時間と空間”

講演者:石川県 子育て農業応援団 山本実千代 団長、涌波理絵 氏

山本実千代さん、涌波理絵さん
山本実千代さん(左)、涌波理絵さん(右)

 子育て農業応援団は、全国6,000カ所ほどある「子育て広場」のひとつを基盤に、未就学児童を対象とした農業体験をおこなっています。

公園デビューならぬ農園デビュー
 金沢市荒山町にある耕作放棄地をスタッフや親子みんなで開墾し、農薬を使わない田畑で野菜やイネを育てています。今年は8家族が参加。活動の様子を紹介したTV番組が会場で流れると、「イネ刈ったら草が眼に入ったー」とつぶやく子どもの姿や、よちよち歩きの幼児がスタッフにひょいと抱え上げられ、赤く実ったトマトを迷わずつまんで食べる姿に、会場中がなごみました。当初、熟す前のトマトが青いことも知らなかった子どもたち、今ではすっかり畑になじんでいます。

 参加された親子の一人である涌波さんからは、子どもたちの変化に驚いたことについてお話がありました。
 「家でもバケツ稲を育てていて、TVクルーの人に『誰ががんばって育てたの?』ときかれまして。子どもたちはあまり面倒を見てなかったので(笑)、しばらく考えたあと『神様が育てた、雨ふらして育ててくれた』といったんです。これには、誰も教えたわけじゃないのに、とびっくりしました」。遊びながら体験できたことで、子どもの心の土作りができたようです、とのこと。

子育てと農業は共通点がいっぱい
 また子育て農業応援団では、活動している仲間を「ファームファミリー」と呼ぶそうです。
 団長の山本さんは、「住んでいる地域も、年齢もバラバラの親子が、ファームに参加することでひとつの家族になります。親も情報交換ができるし、子どもも友達がいっぱいできる。子育てと農業の共通点はいっぱいあるんですよ」といい、実感できる農業体験の楽しさをお話しされました。

 今年は、酪農体験、漁業体験ができるファームも始め、県内の活動範囲をさらに広げていくそうです。

実践報告3:“食べ手”と“作り手”をつなぐ「食と農をキビリ隊」発足!!

講演者:宮崎県 JAえびの市青年部部長  鬼川直也 氏

鬼川直也さん
鬼川直也さん

 開口一番「靴脱ぎます!」と宣言し、脱いだ靴を、演壇の脇にきちんとそろえる鬼川さん。昨日からずっと(いつもははかない)革靴が窮屈だったので、と鬼川さんの思いがけないパフォーマンスに会場から笑みがこぼれます。
 えびの市は人口2万2千人の小さな市で、JAえびの市青年部の7割が畜産農家、3割がピーマンなどの園芸農家です。部員を“盟友”と呼びなわらし、宮崎県の食農教育のパイオニア(自称)として活動しています。実際、「農家のおじちゃんと語る会」は14年、「お米学習教室」は12年、市内の小学校5年生を対象とした地道な活動を続けています。

ターゲットは栄養士の卵たち
 実践のきっかけは、ここ数年の景気後退で、農業の先が見えなくなり「どげんすればえっちゃろか」と悩んだこと。「経営努力はすでにやり切っていてこれ以上工夫できない。ではどうする? 消費者を変えなければ!!」と思ったのだといいます。
 そこで、「食と農をキビリ(地元の言葉で「むすぶ」の意)隊!」が発足。食べ手とつくり手を結ぶ活動が始められました。

 活動のゴールは、南九州大学健康栄養学部管理栄養学科の女子学生と一緒に、特産のサツマイモ(唐芋)を育て、新たな郷土料理をつくること。
 なぜ栄養士の卵である女子学生たちとタッグを組むようになったのかといえば…これまで、食育の分野で消費者の前に立つのは、栄養士であることが多かったためだといいます。食べ物の栄養については、消費者に情報がいきわたっても、「農業」については情報がどうしても手薄になってしまう。ならば農家と栄養士の卵が連携をとり、今の状況を変えたいと思ったそうです。

 そして女子学生と“盟友”たちはまず、サツマイモ7品種(宮崎紅、コガネセンガンなど)とトウモロコシを定植。最初は何をすればよいかわからなかった学生たちが、作業が進むうち率先して裸足になり、畑に入っていったそうです。
 これには鬼川さん「『土ってきもちいいー』ってどんどん靴を脱いでいって。うれしかったあ。ペディキュアをしてる人が多くて、ミスマッチに思えるかもしれないけど、土に映えてまるで宝石みたいで、きれいなんですよ」とニッコリ。

食農教育における致命的欠陥の発覚!!
 和気あいあいの作業に、心はずむ“盟友”たちでしたが、重大な欠陥が発覚。それは、「業(技術)」のことはすらすら口をついてでてくるのに、一番大切な「農(農業について、気持ちに直接訴えかけること)」を伝えらないという事実。消費者の心に届く話ができてない、と言うのです。

 ですが、まだ実践は始まったばかり。女子大生との教育ファームで、今までより盟友の参加率が倍増したなど、青年部活動が元気になる思わぬ効果に、一石二鳥どころか三鳥も四鳥も産み出しそうな、元気あふれる活動報告でした。


文責:事務局・阿久津若菜

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