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お知らせ

教育ファーム推進全国大会

【開催報告】やらなきゃ損そん!教育ファーム
――食・農・暮らしをつなぐ農林漁業体験大集合――

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 2010年1月16日(土)、東京国際フォーラム ホールB5において『教育ファーム推進全国大会」が開催された。
 【パネルディスカッション】では、生産者、学校、行政、市民団体、それぞれの立場の仕掛け人が参加して、「教育ファームを続けてよかったこと」「これからどのような活動を続けるか」など、今年度の成果をふり返りながらの活発な意見交換が行われた。

パネリスト:鬼川直也(JAえびの市青年部部長・宮崎県)
      鶴満喜枝(尾道市立木ノ庄西小学校教頭・広島県)
      浅川裕介(北杜市産業観光部農政課・山梨県)
      中田三喜男(市民体験農業を考える会事務局長・北海道)
コーディネーター:栗田庄一(農文協常務理事)


【パネルディスカッション】 仕掛け人が語る教育ファームの魅力〜体験成果と実践手法

 教育ファームを未来につなげる活動にするためには、「仕掛け人」の存在が欠かせない。今回、パネリストとして参加した仕掛け人たちは、さまざまな問題に向き合うたび、地域の力を借りたり、昔の知恵を呼び起こしては“ピンチをチャンスに変えて”きた強者たちだ。そんな仕掛け人が一同に会し、まず今年の活動について報告がされた。


会場
鬼川直也さん
●鬼川直也さんの活動報告〜生産者の立場から
 鬼川さんたちJAえびの市青年部は、南九州大学管理栄養学科の女子学生たちと2009年4月に「食と農のキビリ隊」を結成。特産品のサツマイモを育て、新メニューを開発するなどの活動をしている。ちなみに“キビリ”とは“結ぶ”という意味の方言だ。
 農家のプロと食のプロとが手を結ぶ、教育ファームを立ち上げた理由はズバリ、「消費者が変わらなければ、農を取り巻く厳しい環境は変わらない」という、強烈な危機意識からだった。
 将来の食育の指導者に農の現場を体験してもらい、生産者の立場をよくわかってもらいたい。それが消費者と生産者の距離を近づける第一歩だと考えたのだ。だから学生たちはゲストとしてではなく、青年部の盟友(部員のこと)と一緒に畑に入り、サツマイモの育て方を一から学んだ。
 初日からうれしいハプニングがあった。サツマイモ苗の定植の時、女子学生たちが次々と裸足で畑に入ってくれたことだ。これには鬼川さん、「みんなの距離がぐっとちぢまった感じがしました」と顔をほころばせた。
 また南九州大学の学園祭では、青年部の部員たちが出向いてサツマイモの販売をするなど、一方通行ではない交流を行っている。現在は、JAえびの市の売店で販売するサツマイモのスイーツを、20種類ほど開発中とのこと。活動の輪を着実に広げている。
★参考記事:「食」と「農」ハッピーな次世代コラボでキビリ隊 (教育ファームねっと・現地レポートより)


会場
鶴満喜枝さん
●鶴満喜枝さんの活動報告〜学校の立場から
 「結び合いの場と本物活動を、表現活動につなげている」という木ノ庄西小学校では、生活科や総合的な学習の時間を使った農業体験を行っている。その活動には、学校ボランティア、ゲストティーチャーの参加が欠かせないが、継続して協力を得る秘訣は“礼を尽くすこと”。
 たとえば学校から出す依頼文には、必ず子供たちの文章を添え、さらに子供たち自身の手で届けている。
 また年3回、田植えや稲刈りに合わせて行う体験教室では、体験が新鮮なうちに「言葉集め」をして感動を言葉に残しておき、のちにゲストティーチャーの協力を得ながら、全学年で俳句をつくる。3〜4年生の総合的な学習の時間ではブドウ作りを行い、そのようすを迫力ある絵画で表現。活動の中で生まれた俳句、作文、絵画が、数々のコンクールで入賞するなど、その成果が確実にあらわれている。
 教育ファームを進めたことで
1. 協力者の輪が広がり
2. 子どもの表現能力が育ち他教科への発展がみられ
3. 学校が情報発信することで、保護者からの信頼が篤くなった
ことが挙げられた。


会場
浅川裕介さん
●浅川裕介さんの活動報告〜行政の立場から
 10年後、20年後の北杜市はどうなるのか? という危機感から始まった北杜市での教育ファーム。それは、次世代を担う子供たちを「食」「農」両面から育てたいという、共通認識が基盤になっている。そして幼児・小学生の親子を対象にした農業体験を行う。
 たとえば、夏休みの特別企画では、田んぼの一角で泥んこ相撲大会を開いた。浅川さんが、相撲はそもそも、田の神さまに奉納する大切な行事だったことを説明したあと、浅川さんと一緒に水着姿の子どもたちが、泥まみれになっての体験。ふるさとの文化を理解し誇りに思える道すじが、自然と体になじむような仕掛けがなされているのだ。
 そんな熱い行政マンが活躍する北杜市では、平成22年度から「食と農の杜づくり課」が設置される。これまでの教育ファームの成果を、未来につなげるための一歩を踏み出した。
★参考記事:田の神さまに届け 泥だらけの「はっけよ〜いのこった!」 (教育ファームねっと・現地レポートより)


会場
中田三喜男さん
●中田三喜男さんの活動報告〜市民団体の立場から
 「札幌には遊休農地が200ha以上もあるんです」という中田さん。平成16年に始めた親子対象の市民農園では、3歳以上、小学生以下の20組の親子と一緒に、野菜の栽培・加工体験を行っている。
 札幌農学校OBの指導が受けられるという農園では、トウモロコシ、枝豆、ジャガイモなど、比較的育てやすい作物を個人圃場でつくるほか、共同圃場やOBの見本園があり、初めての人でも確実に栽培が楽しめる工夫がされている。
 また、各圃場に手作りの看板を掲げるようにしたことで、月1回くらいしか来なかった人が、毎週畑を訪れるようになったといううれしい効果もあった。
 さらに今年は新しい試みとして、保存食づくりに挑戦。干した大根を使って、北海道の伝統食「ニシン漬け」と、大根、キュウリ、ズッキーニの浅漬け「ころころ漬け」をつくった。これは「秋の収穫で終わりでなく、もっと食を学びたい」という参加者の思いと、「北海道の自給は冬こそ大事」という主催者の思いが合致して実現。体験後に必ず実施するというアンケートでは、「さっそく家でつくってみました」といううれしい反応が、段ボールいっぱい集まったそうだ。
 加工体験を入れることで、<育てる>から<食べる>へとスムーズにつなぐ仕掛けができたという。


●教育ファームを実践して一番感じたことは?

 「“コンカツファーム”と呼ばれたこともありました」と笑う鬼川さんからは、女子学生が最初から裸足で畑に入って作業をしてくれたうれしさが挙げられた。生産者との間にあった垣根が取り払われただけでなく、大きな驚きもあったからだ。それは、女子学生たちの足のペディキュア。「色鮮やかなのにびっくりしました。畑の土の上で、ビー玉のように輝いてそれはきれいだった!」とうれしそうに語る姿に会場も和む。
 さらに「(農の現状を)変えるためにはエンターテイメントが必要。農業の“業”だけ伝えても同情しかもらえんとですよ」という経験から生まれた強い言葉に、大きくうなずく人も見られた。

 鶴さんは、1-2年生のジャンボ大根づくりの例を挙げた。ジャンボ大根とは、9月に植え3月の収穫期には直径80cmにもなるという、超大型の大根。子どもたちは、自分たちがつくった大根を親にも食べてもらいたい、と(たとえ家に大根があっても)持ち帰るのだそう。生産者の思いを受け止めて子どもたちが変わっていくこと、その子どもの姿勢で親も変わっていくことにふれた。

 浅川さんは、小浜市の協力を得てキッズキッチンの実践をしたことにふれ、食に関する親子の会話がふえたことを挙げた。また土日を使った小学校の実践ではいろいろな地域から子どもが来るため、今までなかった範囲の交流が、親も含めて広がることにもふれた。

 中田さんは、昔ながらの知恵の伝達が農業体験を通じて広がったことにふれ、体を物差しにして農作業をする例が紹介された。「株間30cmと本によく書いてあるけれど、お父さんの足の大きさってだいたい30cm位ですよね。だからタネをまいたら足を踏み、一歩先に次のタネをまけば、株間30cmとれます。そんなアバウトさもまた、農業なんですよ(笑)」とのこと。

会場
パネリストのみなさん
会場
一年の活動成果の発表も

●会場からの声
 会場からは、南九州大学管理栄養学科の女子学生2人が、JAえびの市の青年部員たちとの活動を通じて変化した意識について話してくれた。「農家はとっつきにくいというイメージがあったけれど、畑で冗談を言いながら作業ができて楽しかった」「スーパーで買い物するとき、“JAえびの市産”と書いてある野菜を見ると、あの人たちが作っているのかな? と思うようになった」とのこと。
 また、北杜市の白倉政司市長からは「体験は尊いということを基本に、人づくりが“ふるさとづくり”だと思って教育ファームを進めています」との発言があった。


●これからの目標は?
 今後の教育ファームの活動について問われると、鬼川さんは「女子大生(食)と青年部(農)の結びつきをさらに深め、ゆくゆくはえびの市の食農教育の中核になってもらえれば」、鶴さんは「活動を継続できるように、学校が組織としてカリキュラムづくりをすること」、浅川さんは「いずれ北杜市を支える10年後、20年後の子供たちへの投資となること」、中田さんは「都市だからこそできる試みなのでこれからも活動を広げていきたい」と、それぞれの立場から今後の取組みについて語られた。

会場
南九州大学健康栄養学部管理栄養学科の学生、原田さんと長野さん
会場
北杜市の白倉政司市長

 


文責:事務局・阿久津若菜、写真:児玉記幸

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